「はぁ~、食べた食べた~」


ゴロ~ンとリビングで横になる柚希。


「おい、食った後すぐ横になると牛になるぞ」


「大丈夫大丈夫~」


「たくっ」


洗い物をしながらもあいつに注意してやったのに、まるで聞く耳持たずだ。


「空くんって、まるで柚希ちゃんのお父さんみたいね」


隣で洗い物を手伝ってくれている綾音さんはクスクス笑いながら、俺が水ですすいだ皿をタオルで拭いていく。


「俺はあんな娘、嫌ですよ。
もうちょっと清楚感のある娘がいいです」


そう、例へば真理奈とか・・・・。


・・・何で真理奈?


ま、まぁ、これはあくまで例ばだしな!


「・・・空くん」


「は、ハイ!?」


って、何焦ってんだよ、俺は!


恥ず・・・。


「もし私みたいのが娘でも嫌?」


「え?」


「それとも、娘というより、恋人の方がいいかしら・・・?」


にっこりと笑いながら俺と距離を縮めてくる。


「あ、あの・・・綾音さん?」


俺はどうすればいいのかわからなくて、ただジリジリと少しづつ後ろに下がることしかできなかった。


「ねぇ、空くん・・・」


上目使いで俺を見上げる綾音さんは、風呂上がりのせいもあってか、いつもより倍に色っぽく見えた。


「・・・・っ」


変な汗が出てきて、ドクドクと心臓が早くなる。


この状況、俺にどうしろっていうんだよ!


他のみんなはリビングでテレビを見ていて今の俺たちに気づいてない様子。


くそっ。


「・・・あ」


何かを諦めかけたその時、綾音さんは俺から離れて肩を震わせながらさっきよりも大きく笑った。


「ハハハハ!
ごめんなさい、さっきのは冗談よ」


「じょ、冗談・・・?」


「そっ、あまりにも空くんが戸惑った様子がおかしくて、ちょっといじめたくなったの」


「な、なっ・・・!」


つまり俺はからかわれたってことか。


くっ、さっきまで変に戸惑ってた自分が恥ずかしい・・・。


「ごめんね?
怒った?」


「・・・怒ってませんよ」


「とか言って、ホントは怒ってるんでしょ~?」


「怒ってないって言ってるじゃないですか!」


俺は全部の洗い物を終わらせて、ズンズンとみんなのいるリビングに向かう。


今俺が機嫌悪いのは、からかわれてムキになったってのもある。


けどそれ以前に、先輩に何か期待していた自分が恥ずかしくて、そんな自分にムカついていた。


「・・・・綾音さん」


くるっとまだキッチンに立っている綾音さんの方を向く。


「いつかこの仕返ししますからね」


「・・・・」


綾音さんは俺がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。


びっくりしたした顔をした後、「のぞむところよ」と言うように、微笑んだ。


そしてまたリビングへ向かう足を進める。


きっと俺は今、恥ずかしさで赤くなっていることだろう・・・。

















「私も空くんみたいに素直だったら、ちょっとは違ってたのかしら・・・」


最後に後ろで小さく呟いた綾音さんの声は、俺の耳には届かなかった。