みんながぞろぞろ部室を出ていく中、まだ中にいた真理奈に呼び止められた。
「あの、これ空くんに・・・」
「え?」
渡されたのは可愛い紙袋。
「これ・・・」
「クッキーです。チョコクッキー。
昨日作ったんですけど、よっかったら貰ってくれますか?」
「うん。ありがとう」
せっかくくれるのに断る理由がない。
それに柚希たちみたいにいろんな人にあげてるんだろうし。
「って、もうみんな帰ったのか?」
部室に残っているのは俺たち二人だけで、扉の外にも誰もいなかった。
置いてかれたな。
「柚希たちもう帰ったみたいだから、俺たちも帰ろう」
「あ、はい。そうですね!」
先に真理奈を出して、机の上に置いてあった鍵を取って戸締りをしてから帰った。
「こうして真理奈と二人で歩くのはクリスマスの日以来かー」
「ふふふ、前もそんなこと言ってましたよね」
「そうだっけ?」
今までの記憶を思い返してみる。
『こうして真理奈と歩くのって、夜桜見に行った時以来だな』
あぁ、確かにクリスマスにこんなこと言ったような気がする・・・。
「けどまさか今日、四人もチョコ貰えるとは思ってなかったよ。
ま、帰ったらたぶんまだ母さんのが待ってるんだろうけど」
苦笑いする俺の顔を、真理奈がじーと見ていたことに気づく。
「な、なんですか?真理奈さん・・・」
しかも笑顔とかじゃなくて、真剣な顔で。
なんか妙に緊張してしまう。
「四人って・・・私と綾音さんの他にも貰ったんですか?」
「え?うん・・・。
後風花と柚希に」
「やっぱりそうですか・・・。
まぁ、部員の女の子があげるのは当たり前ですよね」
「・・・?」
「でも、私のは特別です。
当たり前だからあげたんじゃないですよ?」
「そ、そうなんだ?
よくわからないけど、ありがとう?」
「何で疑問形なんですか」
ふふふと笑う真理奈は、いつもの真理奈に戻っていた。
あの真剣な表情はなんだったのやら・・・。
「あっ私この辺でいいです。
寄る所があるので」
「そっか、じゃあまた明日」
「はい、名残おしいですけど、また明日会いましょう」
そう言って、手を振りながら行ってしまう真理奈に俺も振り返した。
真理奈の姿が見えなくなってから来た道を少し戻る。



