7時。
集合時間だ。
なのに…。
「部長、遅いですね」
そう、言い出しっぺの柚希が遅刻していた。
「あ、来たみたいですよ!」
「はぁ、はぁ。
ごめん、遅れちゃった…」
走ってきたのか、息が荒れている。
「たくっ、何してたんだよ」
「ははは、ちょっとね」
苦笑いをして誤魔化した。
「でも柚希ちゃんが来たのなら、早速始めましょ」
「そうですね」
綾音さんの一言で、みんなお花見の準備を始めた。
「桜、キレイですね…」
「そうだね」
桜を見上げる真理奈の隣で、俺も見上げて答える。
桜は、側にちょうちんが下げてあって、ほのかに見える花びらが光っているように見えた。
「…空くん」
「ん?」
「あ…」
「空くん、真理奈ちゃーん、準備できたよ~!」
「あ、柚希が呼んでる。
行こう、真理奈」
「あ、はい…」
何かを言いかけた真理奈に気づかず、俺はみんなの待つビニールシートに歩いて行った。
「それではみなさん、お花見にかんぱーい!」
『かんぱーい!!』
コップに入れたジュースを飲む。
乾いていた喉に、ゴクッと音を鳴らして体の中に流れていった。
「私の家で作った速成のお弁当なんたけど、食べないかしら?」
綾音さんは真ん中にドンッと持ってきたのであろう、大きい重箱を置いた。
そしてカパッと蓋を開ける。
『おぉ~!!』
俺だけでなく、みんなも声を上げてその中身にぐぎづけになった。
エビに卵焼きに花形に切られたニンジンの煮物…。
おまけにいくら巻きまである。
「綾音さんの家って、お金持ちですか…?」
ただ一人で呟いただけの言葉だったが、向かいにいる綾音さんには聞こえていた。
「そうね。
私の家って豪華なのかもね…」
ははぁー、すごいな。
ホントに現実で、間近にいるもんなんだなー、お金持ちの知り合いって。
今この身をもって体感してます。
「すごーい、すごーい!
豪華料理だ~!」
柚希と風花は興奮にして目をキラキラさせていた。
あ、風花って、おかし以外にもちゃんと興味あるんだな…。
「ねぇ、早く食べよ!」
「ふふふ。
はい、お皿」
「ありがとう!
じゃあ早速、いただきまーす!」
取り皿を受け取った柚希は、一番に食べ始めた。
そしてみんなもそれぞれ飲んだり食べたり…。
桜を見る人はそんないなかった。
みんな花より食べ物ってことですね…。
けど、こんな賑やかな花見は初めてだ。
感謝するかどうかは、わからないところだけど、いい思い出にはなったな…。
桜を見上げると、サァーと風が吹いて、花びらがヒラヒラとキレイに舞っていた。