それから少しして大地くんも真理奈も、おまけに綾音さんまで来た。
綾音さんはもう三年生だから後一ヶ月したら卒業。
今はもう三年生だけ自由登校になっていて、学校に来なくてもいいようになっている。
「綾音さん、もう自由登校だから来なくていいんじゃ・・・?」
そう聞くと、綾音さんは笑いながら
「ふふふ、今日はみんなに渡すものがあるから持ってきたの」
と言って袋から赤いリボンの箱を取り出す。
もしかして・・・。
「バレンタインのチョコ。
みんなの分持ってきたの!」
はいっと一人ずつに渡していき、俺の手元にも回ってきた。
「手作りじゃないけど、美味しいって評判のお店のチョコなの」
「これ、ポピックのチョコじゃないですか!」
風花が貰ったチョコの箱の銘柄を見て心底驚いていた。
「知ってたの?」
「知ってたも何も、有名じゃないですか!」
「ねぇ、ポピックって何?」
風花と綾音さんの会話の中に困った顔をした柚希が間に入った。
「ポピックっていうのは、お店の名前です。
最近美味しいチョコ屋さんができたってクラスの間では人気なんですよ!
でもそこのお店、結構値段が高くて・・・。
そこら辺の人じゃ手が出せないんですよ」
「へー、つまりお金を持ってる人だけが買えるってこと?」
「早く言えばそういうことです」
二人の話を聞きながら箱に目を落とす。
さすが綾音さん、お金持ちは買うチョコも違うってことですね。
「も~、感激です!
一度でいいんで食べてみたかったんです!
ありがとうございます、綾音さん!」
「喜んでもらえてよかったわ。
じゃあ、私はこれで」
「え、もう帰っちゃうんですか?
せっかく来たんだし、ゆっくりお茶でも・・・」
哉斗が綾音さんにお茶を進めるが、綾音さんは苦笑いしながら
「ごめんなさい。チョコを届けに来ただけなの。
もう家に戻らないと・・・」
「そうですか・・・」
「じゃあ、また卒業式会いましょう」
扉を開いて出て行った。
シーンと数分沈黙する。
綾音さんとはもう卒業式まで会えないんだ。
何かガラじゃないけど、少し寂しくなるな・・・。
静まった部室の空気を変えたのは、大地くんだった。
「このチョコ、本当に美味しいです・・・」
綾音さんから貰ったチョコの箱を開けて食べていた。
みんなそれを見て一斉に箱を開けて食べる。
もちろん俺も。
「綾音さんからの初めてで最後のプレゼントかー。
何か寂しいね」
「そうですね・・・」
「卒業式、私たちで何か特別にみんなでプレゼントしない!?」
しんみりした空気に柚希の明るい声が響く。
「プレゼント?」
「うん!みんなで何か作ろうよ!」
「何かって何を・・・?」
「それを今から考えるんだよ!
ほら、しんみりした空気は終わり!
今から何を作るか意見を聞くために部活始めるよ!」
立っていた風花や哉斗は柚希の言葉で指定席に座る。
みんな座ったところで、部活は始まった。
って、最初から始まってたんじゃないのか!?
まあ、柚希が空気を変えようと、いきなり提案したのはあいつなりの気使いなのかもしれない。



