「へくしゅっ」


小さく女の子らしいくしゃみをする綾音さん。


「そういえばマフラーしてませんね?」


俺の家に来た時は確かにしていたような気がする。


「あら、よく見てるのね。
たぶん置いてきたわ」


「そうなんですか」


マフラー忘れて急ぐほどさっき買ったアイスが食べたかったんだろうか?


「でもそれじゃ風邪引きますね」


俺は自分に巻いているマフラーを外して、綾音さんに巻いてあげた。


「え?」


突然のことで綾音さんはびっくりしているようだった。


「風邪引かれたら困るんで、使ってください」


「で、でも空くんが風邪引いちゃうんじゃ・・・」


「俺は男ですよ?
そんなやわじゃありません」


「そっか・・・。
じゃあありがたく使わせてもらおうかしら!」


笑顔になる綾音さんを見て、今日初めて本当に笑った顔を見たような気がした。


「ありがとう、空くん」


「男として当たり前のことをしたまでですよ」


冗談ぽく言って、俺と綾音さんは笑いあった。


「・・・あの人が、空くんみたいだったらよかったのに。
そしたら私ももっとちゃんと素直になれてたのにな・・・」


「何か言いました?」


「ううん、何でもないの」


ボソっと呟いた綾音さんの言葉は、俺の耳には届かなかった。