ライラックをあなたに…



「もう遅いから、家に帰りなよ」

「………だから、来たんだよ」

「え?」

「『深夜、閑静な住宅街で美人OL、強姦魔に襲われる』なんて事件が起きたら、後味が悪いじゃん」



街灯に照らされた彼は私の瞳をまっすぐ見つめ、真剣な表情で私を見下ろす。


「心配してくれてありがとう、でも大丈夫だから。私、被害届を出すつもりないから、事件沙汰にはならないと思うよ?」

「えっ?……拾うとこ、そこ?」

「ん?」



一颯くんは呆れたように髪を掻き乱した。


………解ってる。

お世辞で『美人OL』と言ってくれた事くらい。


私が神妙な面持ちだから、気を遣ってくれたんだよね?

だから、私も………このダークな空気を少しでも晴らしてあげたかったんだよ。



「帰る気ないの?」

「ないね」

「即答なんだ」

「ん」

「…………そっか」

「ん」



言葉に詰まった私は気まずさから俯くと、