ライラックをあなたに…



「全然、大丈夫な顔してないじゃん」

「ッ!!」


視線を逸らした所を覗き込まれてしまっては、もう逃れる理由が思いつかない。


「アハハハッ、本当に大丈夫だから」


空元気を装うのも限界だ。

苦し紛れの言葉も彼には全てお見通しだと思う。


それでも、彼にはこれ以上甘えられない。

ううん、頼ってはいけないのよ。


今、彼に頼ってしまったら………恐怖から逃げる為に縋ってしまう。


一度崩れてしまった砂の城は、幾ら修復を試みた所で元には戻る事が出来ないのだから。


見ず知らずのアラサー女を拾ってくれただけでも有難いのに、これ以上煩わしい事に付き合せる訳にはいかない。



「ありがとう………気持ちだけ貰って行くね?」


私はそう呟いて、彼の顔を見ずにその場を後にした。


振り向いてはダメ。

足を止めてもダメ。

今ここで涙を零したらダメなんだから。



自分に言い聞かせるように念じながら、足早に自宅へと向かった。