ライラックをあなたに…



自宅へと向かう途中に一颯くんの自宅があるのに気付いた。


「結構近い距離に住んでたんだね」

「ん?………何か言った?」

「ううん、何でもない」



彼は私の家がどこだか知らないんだもんね。

余計な事は言わなくていいか。



一颯くんの自宅があるマンションの下で、


「昨日今日と、本当にありがとうね。御礼はまた後日、改めて伺うから」

「………」


彼にこれ以上迷惑を掛けたくなくて、早々にその場を立ち去ろうとした。


すると、


「ホントに大丈夫?」

「………………ん」

「今、かなり間があったよね?」

「……え?」


彼が言わんとするところが分かるだけに、返答に困ってしまった。

ポーカーフェイスを装う程、私は心に余裕が無い。



「………大丈夫。逃げてても解決はしないから」


絞り出すように呟いた言葉。

今の私にはこれが限界の返答だった。


なのに………。