ライラックをあなたに…



「1人で家に帰るのが嫌なら落ち着くまで付き合うし、侑弥って人に会うのが怖いなら、俺が家まで付き合うよ」



あぁ、そういう事か。


私は『本間一颯』という人物をすっかり忘れていたよ。

彼は私が考えていたような事をする人ではないんだった。



自殺を図ろうとした私を無条件で助け、酔い潰れた女に手を出す事無く一晩自宅に泊めてくれて、挙句の果てには『心配で放っておけない』という理由で、気分転換までさせてくれた人。


そんな人が邪な考えを起こす筈が無い。


私は思わず、肩の力が抜けてしまった。



「一颯くんって、本物のナイスガイだね」

「は?」

「大学でもモテるでしょ?」

「いや、俺今、そういう話してないよね?」

「彼女とか居ないの?あっ、居たら私なんて泊めてないか」

「いや、だから~、俺の話聞いてた?」



一颯くんは呆れたように苦笑した。



「………聞いてたよ」

「…………そう」



信号が青になり、歩き出す瞬間、とても小さな声で呟いた。

それをきちんと拾った彼は優しい声音で返してくれた。