ライラックをあなたに…



侑弥さんが予約を入れてくれたようで、お座敷に通されるとすぐにお料理が運ばれて来た。


先付、椀物、向付、焼物、強肴、止め肴、食事・止め椀・香の物、水菓子に至るまで、どれも春らしい香りがするお料理ばかり。

季節柄、色鮮やかな春の懐石がテーブルの上を彩った。



久しぶりのお食事デート。

まったりと過ごした私たちは、気付けば2時間近く経っていた。



「寿々、そろそろ」

「うん」


ジャケットを羽織った侑弥さんに促され、私もトレンチコートを羽織った。


3月中旬を過ぎて少しずつ春らしい陽気になり、夜風も心地良く感じられる。



お店を出てタクシーに乗り込むと、侑弥さんがそっと私の手を握りしめた。


自宅の外では決して取らない行動に、思わず驚き、ルームミラーに映る運転手を目で追ってしまう。


今までは、例えタクシーの中であっても上司と部下、または友人として通して来た。

いつ何時誰に見られるか分からない環境。

信号待ちのタクシー内を誰かに見られる事も考えられる。


だから、決して……こんな行動は……。