ライラックをあなたに…



突然の教授の質問にふと我に返った。


「あっ!!」


思わず声を上げてしまうほど、すっかり忘れていた品物。

私は慌ててケーキの箱を差し出した。


「教授、私……無事に合格しました」

「それはおめでとうございます」

「これは昨日お話した、カフェ巡りで伺ったお店のケーキなんです。宜しければ、一緒にどうですか?」

「えっ?……いいんですか?私が戴いて……」

「はい、勿論です!1人で食べるより、2人で食べた方が美味しいですし。あっ、でも……ご自宅で奥様がご用意されているかもしれませよね?」

「それなら大丈夫ですよ。うちの妻は、ケーキよりチキン派なので」

「えっ?」

「いえ、何でもないですよ」


教授がはにかみながら言った『チキン派』って、ローストチキンの事?

なるほどね、クリスマスだからって必ずしもケーキがあるとは限らないものね。


カフェを開く為にも、固定観念は捨てないと……だわ。


教授と会話すると、身になる知識ばかり頂いている。

教養が深く、人としても器の大きい教授の話はいつ聞いても楽しいものばかり。


一颯くんが魅了される理由が分かる気がする。