教授は窓際に私を残し、ハーブティーを淹れに行ってくれた。
本当は私が淹れて差し上げたいけど、ここは教授のテリトリー。
私が我が物顔で振る舞っていい部屋では無い。
自分の得た知識を振りかざすような自惚れた人間にはなりたくない。
だから私は、黙って教授が淹れてくれたハーブティーを美味しく戴く。
『心を込めて淹れてくれたものに勝るものは無い』
そう先生から教わっている。
その教訓は一生忘れないように胸に刻んである。
「はい、お待たせ」
「ありがとうございます」
絶妙なバランスで爽やかな香りと仄かな甘い香りが鼻腔を擽る。
そして、柔らかい湯気の下には教授の優しさが込められている。
すっかり通い慣れた研究室。
教授の机の隣りにもう1つの机がある。
その場所こそ、助手をしている一颯くんの机。
自宅同様、整理整頓されていて、何語か分からない文字で書かれた書籍が数冊ある。
そして、その机の隅にアフリカの子供達と一緒に写っている彼がいる。
一昨年の学会に参加した時の写真だそうだ。
無意識にその写真に指先を滑らせていると、
「今日は何の日だか、ご存知ですか?」



