ライラックをあなたに…



私の顔を見て、不思議そうな表情を浮かべる部長。

私は手にしている退職届を部長の机にそっと置いた。


一瞬で困惑する部長の顔を窺いながら、『結婚』を理由に退社したい旨を伝えた。


それから、今までお世話になった感謝の気持ちと、ご迷惑をお掛けする謝罪の気持ち。

そして、残り1カ月、一生懸命職務を全うする気持ちを素直に伝えた。


すると、部長は薄らと涙を浮かべて、優しい笑顔を向けてくれた。


「国末君、結婚おめでとう。良い奥さんになるんだよ」

「はい、本当にお世話になりました。残りのひと月、宜しくお願い致します」


『結婚』が理由なら仕方ないと、部長は快く退職届を受理した。


部長がそっと手を差し出したので、私はそっとその手を握る。

とても温かい、心優しい彼の気持ちが伝わって来た。



入社して5年。

この部長の下で学んだ事は一生忘れない。


沢山の思い出を胸に刻んだ。



退職届も無事、受理されたし。

これで心置きなく、日向の人生を歩む事が出来る。



私は部長に深々とお辞儀をし、その場を後にした。