ライラックをあなたに…



「その、深い意味とかでなく……。ただ、またお茶でもしながら話をするだけでいいので」

「…………お茶だけでしたら………」

「本当ですか?!」

「…………はい」


南雲さんの力強い視線に根負けして、了承してしまった。

まぁ、大丈夫だよね?

カフェでお茶をするだけだし……。



南雲さんとはカフェ前で別れ、一颯くんの自宅へと戻った。

そして、手早くカジュアルな服に着替え、バイト先『源ちゃん』へと向かった。



勝手口から店内に入ると、仕込み場に女将さんがいた。


「女将さん、おはようございます」

「あっ、おはよう。今日も宜しくね~」


業界用語の挨拶を交わし、ロッカーからエプロンを取り出すと、トントンと肩を叩かれた。

叩かれた左肩へ顔を向けると、


「ちょっといいかい?」

「あっ、はい」


女将さんが耳打ちするように声を掛けて来た。

そして、仕込み場の中へ入ると、女将さんは扉を静かに閉める。


「………お見合い、どうだったんだい?」

「あっ、お見合いですか?」



女将さんには、事前にそれとなく話しておいた。

もしかすると、バイトに遅れるかもしれないと思って。


私はエプロンの紐を縛りながら、女将さんの瞳をじっと見据えた。