ライラックをあなたに…



「寿々」

「………」

「前に母さんが話したと思うが、部下の南雲 充(なぐも みつる)30歳。アウトドアが趣味らしく、明るく真面目な男だ」

「………」



父親の口からも見合い話を聞かされてしまった。

きっと、智香ちゃんの結婚式の招待状が引き金だと思うけど、正直何て答えたらいいのか分からない。


歳が幾つだとか、趣味がどうとか、そんな事は重要じゃない。

好きな人が好きな物を一緒に愉しめれば、それが趣味になるだろうし。

30歳だろうが、35歳だろうが、歳の差を感じないほど一緒にいて楽しければ問題無いと思う。


私が一番重要だと思うのは、地位や名誉に『愛情』を天秤に掛けても決して裏切ったりしないか。

私より綺麗な女性が近寄っても、一生私だけを見ていてくれるか。

そういう事が大事だと思うんだけど……。



テーブルの上に置かれた写真。

優しそうな笑顔の男性が写っている。

父親が言うようにアウトドアが好きなのだと写真から窺える。

銀行マンにしては珍しいほど、小麦色に焼けた肌が似合っている。



「どうだ?一度、会ってみないか?」

「………」

「寿々………」


母親まで心配に顔を覗き込み始めた。

私はどうしたらいいんだろう。