瞬きも忘れ、必死にうどんが盛られたザルを握りしめる。
真っ直ぐな視線が突き刺さる中、何を言えばいいのか分からない。
そもそも、彼がどうしてここにいるの?
震え気味の手でザルを握りしめてると、スッと彼の手が伸びて来た。
視線を落とした先には、私の手を覆うように彼の手が重なった。
「ここで、働いてるのか?」
「…………」
温かいはずの手の温度が急に温かさを失ってゆく。
1ヶ月ほど前までなら、嬉しいとさえ思っていた彼の手のぬくもり。
けれど、今は、呼吸をする事さえ忘れてしまうほど苦痛でしかない。
「………は………なして」
やっとの想いで声にしたのに、彼は一向に離そうとしない。
店内の喧騒が遥か遠くでしている気がするほど、今の私は朦朧とし始めていた。
すると、
「すみませ~ん!!………日本酒追加して下さ~い!!」
宴会が開かれている奥座敷の間から男性が顔を出し、追加注文をした。
「あっ!!国末さんじゃん!!どうしたの?結婚したんじゃなかったっけ?」
「えっ、あっ……その……」



