午後6時を過ぎると、仕事を終えた会社員が一気に押し寄せて来た。
しかも、土曜日という事もあり、9時を過ぎてもその波は途切れることなく……。
私は女将さんと宴会用の手打ちうどんを用意する為、奥の仕込み場へ移動した。
「寿々ちゃん、ごめんね~?こんな大変な事させちゃって」
「いえ、大丈夫ですよ~」
女将さんに教わりながら、仕込んであった生地を伸ばしてゆく。
鍋の〆に手打ちうどんを入れるのが『源ちゃん』流。
女将さんが仕上げに伸してゆく合間に私が打ち粉を振り、手際よくうどんが仕上がってゆく。
綺麗に折りたたまれた生地に、ザッザッと見事に包丁を入れる女将さん。
初めて見る手打ちうどんに感動してしまった。
「はい、寿々ちゃん。悪いけど、これをあの人に持って行って貰えるかい?」
「あっ、はい!!」
女将さんから大きなザルを受取って、店内の調理場へ行こうとすると……。
「えっ………」
綺麗にうどんが盛られたザルを落としそうになった。
だって、目の前に…………。
「寿々」
「…………どうして、ここに?」
トイレから出て来たと思われる長身の男。
私の名前を間違う事無く口にした彼。
紛れもなく、あの人――――――



