ライラックをあなたに…



午後になり、設計図をコピーしようと印刷室に向かう途中。


「国末さん」

「はい?」


背後から落ち着きのある男性の声がした。

すぐさま振り返ると……。


「……部長」

「ちょっといいかな?」

「………はい」


声の主はリノベ課の部長だった。


部長の後を追い、小会議室へ入ると。


「今朝はフォロー出来なくて悪かったね」

「………いえ」

「で、どうするつもりなんだ?一旦、会社を退社して、戻って来るかい?」

「……いえ、戻るつもりはありません」

「……………そうか」


リノベ課の部長は、仲人を引き受けてくれた人物。

彼との交際を唯一知っている人物でもある。


やり場の無い感情を必死に堪える為、両手をギュッと結ぶと……。


「鷹見も………君の事を案じているよ。本当に申し訳ないと」

「…………」

「私の本心としては、君と結婚して貰いたかった」

「………」

「縁(えにし)とは、難しいものだね」



部長は彼のフォローをしに来たのだろう。

私がストーカーにでもなったらそれこそ大変だと思って。

そんな心情が表情から汲み取れた。


一体、私をどこまで追い詰めたら気が済むのだろう。