ライラックをあなたに…



朝礼が終わり、皆一様に自分のデスクに戻り始める。

私は千秋先輩と神田君に腕をがっしりと掴まれ、イートインコーナーへ連れて行かれそうになった、その時!!


「国末さん」



毎日のように聞いていた声。

その声を耳にしただけで心臓がトクンと脈を打つ。


ほんの数日前までは愛おしかったその声は、今は恐怖でしかない。



掴まれた両腕の拘束が解かれ、自分の視界に現れた人物。


呼ばれたのだから返事くらいしなければならないのに、何故か声が出て来ない。


真っ直ぐ見つめられた視線に気を遣ったのか、千秋先輩が神田君の袖を掴んで、


「寿々ちゃん、先に行ってるね?」

「えっ、…………はい」


私も連れてって欲しかったのに、その言葉さえ、目の前の人の存在感に掻き消されてしまった。


「少し、話し出来る?」

「…………はい」



周りの社員の目もあり、一定の距離を保ちつつ、彼の後を追って非常階段の踊り場に移動した。