ライラックをあなたに…



「この度、めでたい事に鷹見君、国末さん、それぞれの結婚が決まったそうだ」


部長の一言で一気にざわつき始めるフロア。


高嶺の花の彼が結婚するとあって、女性社員からは悲鳴の声が漏れて来る。


そして、少なからず、私へ向けられる視線もまた、温かいものばかりでは無い。

取り柄の無い私みたいなOLが寿退社するのだから、それ相応に痛い視線が向けられる。



「では、2人とも……一言ずつ挨拶を」


部長の言葉で彼が一歩前に出た。


「私事ですが、この度、結婚する事となりました。今後は今以上に頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します」


侑弥さんは一礼して、私の隣りに立った。

私はそんな彼の足下に視線を置き、彼と入れ替わるように一歩前に出た。


「同じく私事ですが、この度、結婚を機に退社する事となりました。5年という短い間でしたが、大変お世話になりました。残り1ヶ月弱ですが、どうぞ宜しくお願いします」


私は淡々と述べ、深々とお辞儀をした。


―――――これでもう、後が無い。


外堀を固められた状態の私、もう逃げ場がない。


私が仕事を失うまでのカウントが、今始まった。