「ちょっと待って下さい。
すぐに戻って来ますから」

彼女はそう言って、事務所の向かい側の
部屋に姿を消した。

私は教会の中をゆっくり見回した。
とても静かで落ち着く。

十字架もキリスト像も聖母マリア像もどこにも見当たらず、飾り気がなくてガラーンとしている。

私から見て斜向かいにある部屋に目をやるとドアが少し開いていて、パイプオルガンがチラッと見えている。
礼拝堂、あるいは礼拝室というべきだろうか、そこから目が離せない。

頭の中でシューベルトのアヴェ・マリアが流れ始めて、意識がスーっとどこか他のところに飛んで行った。


しばらくして、カチャっというドアの音で我に返った。
ドアの方を見ると、彼女と目が合った。
彼女が手招きをしていたので部屋に入ると、カップと急須がのったお盆がテーブルに置かれていた。
部屋の中は、廊下より幾分か暖かい。

彼女がカップに紅茶を注いでくれた。
ほんのりとレモンの香りが漂う。

『いただきます』

躊躇いがちにカップを手にとり、レモンティーを飲んだ。

体が温まって行く。