目の前の女の子は悔しそうに瞳を揺らす
と、俺の前から走り去っていった。
それでいい。それでいいんだ。
そのまま俺のことを軽蔑してしまえば良
いんだ。
「まーた酷いフリかたすんのな、お前」
ヒョコッと壁から顔を覗かせたのは、俺
が唯一心を許してる男、溝渕彼方〔みぞ
ぶちかなた〕。
赤茶の短髪で、ピアスも何個かつけてて
見た目はチャラ男だが、内面はいいやつ
だ。
「別に酷くはない」
「……お前、本当に残酷だよな。付きま
とわれるのが嫌なら、抱かなきゃいいの
によ」
そうだな。
彼方の言う通りだよ。
―――それでも、俺は。
女を抱かなきゃいけない。抱いて、抱い
て、全てを忘れなくちゃやっていけなか
った。


