引っ越した先には、父さんの会社の支社
があって、父さんはそこで仕事をした。
母さんは仕事を止めて、専業主婦となっ
た。
引っ越してからは、だれもあの話題に触
れる事はなくて。
ただ、写真は飾られたままだった。
「──そろそろ、和馬に本当の事を教え
なくちゃね」
母さんが神妙な面持ちでそう言い出した
のは、中学二年生の冬。
俺はすぐに、本当の事、というのが、俺
に弟が居る事だと察した。
「別に、母さんが辛いなら俺は知らなく
てもいいけど」
これは、本心だった。
そりゃ、まったく気にならないって言っ
たら嘘になるけど。
でも、母さんが痛い思いをするんだった
ら、そんなの聞かなくていいと、本気で
そう思ってた。


