それから、前と元通りの家族へと戻った
、という訳にもいかなくて。
父さんと俺の前ではいつも、ニコニコと
笑顔を絶やさない母さんが、影でこっそ
り泣いていることを俺は知ってた。
そして、父さんも気づいてた。
「千枝、和馬、引っ越そう」
父さんがそう言い出したのは、あの女が
来てから一ヶ月後の事だった。
それは母さんも予想外だったらしく、母
さんは大きく目を見開いていた。
そんな母さんに、父さんが、少し辛そう
に微笑んだ。
「……どこか遠い所に引っ越そう。それ
で、また一からやり直そう」
そうして、引っ越しが決まった。
希美と離れてしまうのはすごく嫌だった
けど、でも、そっちの方が母さんにとっ
ても良いことだとはわかっていたから、
俺は駄々をこねたりはしなかった。


