「……一枚、写真を撮らせてくれないか
?」
父さんがそう言うと、男の子は頷いて。
父さんに写真を撮られていた。
父さんの手が震えていたことに、俺も母
さんも気付いていたから、何も言えなく
て。
写真の中、少年はにこりともしなかった
──。
男の子も女も去ったあと、父さんは母さ
んを抱き締めた。
「……千枝、ごめん。ごめんな……」
そんな父さんの言葉に、泣き出した母さ
ん。
俺はどうしたらいいのかわからなくて、
父さんに「和馬も、ごめんな」と言われ
て、ただ首を横に振っていた。
「……俺は、あの子を忘れたら駄目なん
だ」
父さんはそう言って、あの男の子の写真
を見つめていたのを覚えている。
あの写真は今も、リビングに飾られてい
る。


