美梨は部長の隣に座らされた。


「吉川さんは、
ご結婚されてるんだよね?」


頭髪の薄いたぬきみたいな部長は美梨が気に入り、何かと話しかけてくる。



昔とった杵柄というか、美梨はこういうのが結構得意だった。

短大生の時、三ヶ月くらいスナックでバイトしていたことがあった。

割りと性にあっていたが、
母親にばれて辞めさせられた。



「旦那さんとは、うまくいってるの?」


初対面なのに、酒に酔った部長はそんなことまで聞いてくる。


「残念ながら、倦怠期ですねー。
八年目なんで」


美梨が笑顔で答えると、部長は美梨のほうに赤ら顔を近づけ、

「旦那さんとは週何回してるの?」
と聞いた。



そんなことを人に聞かれたのは、
初めてだった。


適当に躱せば良かったのに、もじもじしながら答えた。



「えっと…半年前から旦那が単身赴任
なんで、近頃は全然してないんです」


「半年前から?寂しいでしょ?」

部長はしつこかった。


「寂しいことは寂しいけど、我慢して
ます」



我慢してます、と言った次の瞬間、
美梨は周囲がやけに静かなのに気づいた。