月夜の桜

彼にはまだ、厨の場所など教えていないと言うのに。

目を瞠り、その場に立ち尽くす桜に気づき不思議そうに威月が小首をかしげる。



「姫? どうなされたのです。そのような場所にお立ちになられて……」

「あ……。い、いいえ。何でもありません」



喉元にせり上がった疑問を飲みこんで、桜は無理やり笑顔をつくる。

くるりと踵を返しながら、彼女は考え込むようについと目を細めた。

神の使いと言うのは、こうも何もかも分かっている者なのだろうか。

未だにつきつけられた現実を飲みこめないでいる桜は、瞳を閉じるとゆっくりと嘆息した。