部長とあたしの10日間

「た、助かりました。
お礼してもしきれないくらい…」


もし部長がいなかったら、完全にデートに遅刻するところだった。
本気で感謝しながら頭を下げると、部長は腕を組みながら隣の机にもたれかかってあたしを見た。


「⎯⎯⎯じゃあ、身体で返してもらうとするか」


「え…?」


この男は、一体あたしに何をさせるつもりだろうか。
変なことを要求してきたらセクハラで訴えてやる、なんて構えていたあたしに返ってきたのは予想外の言葉だった。


「お茶を一杯淹れてくれ」


「───お茶、ですか?」


拍子抜けするあたしを見て部長は苦笑する。


「ああ。
昼間と同じやつな」


そして、いつになく柔らかい口調で続けた。


「お前のことはよく知らないが。
お茶の淹れ方が上手いことだけは今朝知った」


そのとき、初めて見た部長の微笑に、なぜか胸がドクンと飛び跳ねた。


「だ、だけって…。
それ全然褒めてないんですけど」


あたしは突然騒ぎ始めた心臓の音がバレないように、慌てて給湯室へ向かう。
部長から死角になる柱の陰に隠れると、不覚にも赤く染まった頬を手で覆う。


今まで何度もお茶を淹れたことはあったけど、あんなふうに褒められたのは初めてだった。
自己満足に過ぎないのに、そのこだわりに気付いてくれる人がいるなんて。
それがあの小泉部長だなんて。
どうしよう。悔しいけど、それ以上にすごく嬉しい。