***
愛子が海と別れ、家の方に曲がろうとしたそのとき、正面に見える北案寺の山門辺りから妙な音が聞こえた。
そう、ちょうど愛子がチキンレッグステーキにかじり付くときとか……或いは、スペアリブを骨までしゃぶるときとか……。
ピチャピチャ、クチャクチャとやけに耳障りな音だ。
愛子の理性は逃げろと警告を発している。だが、怖いもの見たさの好奇心がそれを押し切り……とうとう、愛子は足を山門のほうに向けてしまったのである。
電柱に付けられた蛍光灯はかなり手前にあり、山門の辺りは真っ暗だった。
石段の下からでは何も見えない。愛子は足音を忍ばせ、そうっと一段ずつ上がり、山門をくぐった。
そのとき、カランと足元に何かが触れる。
目を凝らし、恐る恐る拾い上げた、それは――警棒だった。
そう言えば、駐在所の警官が、愛子の不審者発言を受けて、巡回して警戒にあたると言っていたのを思い出す。なんだお巡りさんか、と愛子は一瞬安堵した。
だが、警棒を放り出して何をしているのだろう? と、新たな疑問が浮かぶ。
暗がりに目が慣れ、枯山水の池の奥、石組みの傍に人影が見えた。
「あの……さっきのお巡りさんですよね? 何を」
なさっているんですか? と続けるつもりが、振り向いた彼の顔を見た瞬間、愛子は言葉を失う。
その顔は愛子の覚えている人ではなかった。
いや、正しくは……すでに、人と呼べるものではなくなっていたのである。
愛子が海と別れ、家の方に曲がろうとしたそのとき、正面に見える北案寺の山門辺りから妙な音が聞こえた。
そう、ちょうど愛子がチキンレッグステーキにかじり付くときとか……或いは、スペアリブを骨までしゃぶるときとか……。
ピチャピチャ、クチャクチャとやけに耳障りな音だ。
愛子の理性は逃げろと警告を発している。だが、怖いもの見たさの好奇心がそれを押し切り……とうとう、愛子は足を山門のほうに向けてしまったのである。
電柱に付けられた蛍光灯はかなり手前にあり、山門の辺りは真っ暗だった。
石段の下からでは何も見えない。愛子は足音を忍ばせ、そうっと一段ずつ上がり、山門をくぐった。
そのとき、カランと足元に何かが触れる。
目を凝らし、恐る恐る拾い上げた、それは――警棒だった。
そう言えば、駐在所の警官が、愛子の不審者発言を受けて、巡回して警戒にあたると言っていたのを思い出す。なんだお巡りさんか、と愛子は一瞬安堵した。
だが、警棒を放り出して何をしているのだろう? と、新たな疑問が浮かぶ。
暗がりに目が慣れ、枯山水の池の奥、石組みの傍に人影が見えた。
「あの……さっきのお巡りさんですよね? 何を」
なさっているんですか? と続けるつもりが、振り向いた彼の顔を見た瞬間、愛子は言葉を失う。
その顔は愛子の覚えている人ではなかった。
いや、正しくは……すでに、人と呼べるものではなくなっていたのである。

