夏休みの魔法


力任せに楽屋のドアを開く。

後ろ手でドアを閉める。



「おお、なんで俺たちとこんなにも時間差があるんだよ、お前たちは」

呆れたように言う夕哉に、今は構ってられなかった。






振り向くと、千来は俯いていた。


「…千来」




低く名前を呼んだせいか、千来が震えた。


「どういうつもりだ、あの態度は。木崎さんだからよかったものの…」


「………………」


千来は、何も言わずに俺と視線を合わせようとしない。


もう一度問おうとしたとき、蒼が口を挟んだ。



「木崎さん…?会った、のか…?」




別に先輩と会うことなんて、さして珍しいことでもないだろうに、蒼は驚いていた。






普通だったら、疑うべきところだった。




でも、俺は、それに気づけなかった。







目の前のことで、頭がいっぱいで。





周りの態度まで、気を配れなかった。