夏休みの魔法




しばらくは、沈黙だった。


「…木崎、千来、くん…?」


沈黙を破ったのは、木崎さんだった。


「そうです」


あくまで無表情で、淡々と答える千来。


この一週間とちょっと、こんなこと一度もなかった。


いつも誰に対しても腰が低くて、笑顔だった。


今まで、無理してた?




それとも…木崎さん、だから?





「…いやぁ、びっくりしたよ。娘とあまりにもそっくりだったからね」


ぴくっと、千来が反応したように見えた。


「娘さんですか?ああ、よく話に出てくる」


木崎さんは、よく子どもたちの話をする。



「そう。…千来くん、何歳?」


「…13…」


「千来、言葉遣い」


慌てて注意するけど、千来にはそれすらも聞こえていないようだ。


木崎さんも俺も見ずに、俯いている。



「いいよ、気にしないし」


「すみません…」


だめだ、本当に千来がおかしい。


いつもは敬語なのに…。