ー北斗sideー
撮影が始まると同時に、俺のスイッチは入る。
「はい、次視線こっちちょうだい!」
「もうちょっとクールに笑って!」
難しい指示が出される。
…クールにって…どんなだ?
ああ、こういう指示なら水月が適任だろ、あいつの笑い方はいつもクールだから。
…笑っても笑ってなくても、構わずにフラッシュがたかれる。
一瞬しかできない表情だってあるから、その時その時を撮ってる。
「はい、いいね~!じゃあ次は…」
休むひまもなく、撮影が進む。
ふと千来を見ると、ぽけーっとした顔をしていた。
圧倒されてる、そんな感じ。
それがおもしろくて、仕事中なのについくすっと笑ってしまった。
「お、今の表情いいね~!優しい執事の感じ出てるよ~」
…え…?
ただ、千来を見て笑っただけなのに。
もっと言い換えれば…千来を思って笑っただけだ。
撮影のことなんて、考えてなかったのにも関わらず…。
自分で自分に、驚きが隠せない。
俺は今、どんな顔をした…?
千来に出会ってから、確実に。
俺の中の何かが、変わってきている…。
千来がそばにいると、勇気がもらえて。
千来がそばにいると、不思議と落ち着く。
…この気持ちは、なんだろう…。