夏休みの魔法


「おっじゃましま~す!」

「はい、どうぞ~」


千来は二階建てのあまり大きくないアパートに住んでいた。

二階の、一番階段から遠い隅っこが、千来の家。




「これお菓子」

水月がおもむろにスーパーの袋を取り出す。

「わざわざありがとうございます」

「…家の人は?」

夕哉の一言で、嬉しそうだった千来の表情が一変した。


「…えっと…仕事上、あまり帰ってこなくて…」

「そうか。みえたら挨拶しとこうと思ったんだけど。…悪いな、変なこと聞いて」

「いえ」


「そーいえばさぁ、千来って兄弟いるの?」

陽汰の明るい声が、場の空気を明るくしてくれた。

正直、陽汰のこういうところ、助かる。


「いますよ、兄と……兄、が」

「そこ兄二人って言えばよくない?」

「そ、そうですね。あはは…」


…なんで、苦し紛れのような笑顔なんだ…?