夏休みの魔法


しばらくは無言だった。

言い過ぎた…。

そう思ったから謝ろうとしたら、北斗くんが意を決したように口を開いた。



「…会いたい、人がいるんだ。後悔してるのも、その人のこと」


「?会いたいなら会ったらいいんじゃないですか?」


そう言うと、北斗くんは切なそうに笑った。




「会えないよ。……だって、俺その人のことなにも知らないから」


「何も知らないって…」

少し、ドキッとした。

それと同時に、期待もした。




「…二年前に、一度だけ会った。俺の話を親身になって聞いてくれた。でも、お互い何も知らないままわかれた。だから…その人の、名前も知らない」






……覚えていて、くれた。


感動と同時に、ある衝動に駆られた。



…言ってしまいたい。



それはあたしだって、言ってしまいたい。





………言えるわけ、ない。



だって…あたしは、今あたしじゃない。








木崎千来だ。