ガチャッと音がして振り向くと、蒼が入ってきていた。
「おはよ~…って、千来だけか」
「…おはようございます…」
…仕方ないと分かっていても、蒼に敬語って嫌だ。
「おはよ。…みんな来るまでなら、別にいいぞ」
…敬語じゃなくても。
そう言いたいんだろう。
でも、あたしは首をふった。
「バレたら困ります。それに、慣れたいですから」
慣れなきゃいけない、この環境に、一刻も早く。
「そうか。お前がそう言うんなら、それでいい」
蒼も否定はしなくて、あたしの隣に座った。
「…あのな、芸能界って楽しいばっかじゃねぇんだ。辛いことのほうが多いかもしれない。…対人関係には、気をつけろよ」
蒼が、本気で心配してくれてる。
蒼は本気で心配するとき、どうしても顔を歪めるクセがある。
「…はい、分かってます」
「あとは…お前らしくやれば、それでいいだろっ」
…蒼のにかっていう笑顔を見るたび、思う。
蒼の笑顔には、人を笑顔にする力がある。
人を惹きつける、力がある。

