いや、違う。
似ているけど、違う。
あの子は女の子で、木崎くんは男の子。
だいたい、あの子の名前も知らないじゃないか。
何も知らない。
なのに…なんで……っ…。
「…北斗くん?」
遠慮がちにかけられた声に、はっとした。
「大丈夫ですか?」
見ると、不安げな顔をした木崎くんがいた。
メンバーも、心配そうな顔をしている。
ダメだな、俺…。
みんなに心配かけたらダメだろ。
「うん、大丈夫。ごめんね、ぼーっとしてただけだから」
「そうですか」
何か言いたげな顔だったけど、俺が先に口を開いた。
「千来って呼んでもいいかな?」
「はいっ!」
「あとさ、なんで俺が…憧れなの?」
一番、気になっていた。
どうして俺なんかが憧れなのか。
そこまで有名でもないのに。
「だって、北斗くんだから」
至極当然のように返ってきた答えに、首をかしげた。
「人を好きになるのに、理由がいりますか?…強いて言うならば、惹かれたからです。北斗くんという存在に」
微笑みながら言う千来は、とても中1には見えなかった。
千来という不思議な子が加わり、俺たちの夏は幕を開けた。
千来が何者か、なんて…いつか知ればいいと、軽く考えていた。