夏休みの魔法


「はぁっ、はぁっ…」


ようやくアパートに着いた俺は、膝に手をついて息を整える。


階段を一段とばしで登り、一番端のインターホンを鳴らした。


少し待っていると、ドアが開いた。


「どちらさま……っ!」


俺だと分かったとたん、勢いよくドアを閉めようとした。


その前に、俺はドアの縁を掴み、開けさせる。


それでもこいつはドアノブを引っ張り、必死で閉めようとする。


「なんで閉めるんだよ!」


「帰ってください!なんで来たんですか!」


「話したいことがあるから来たんだよ!」


「話すことなんてありません、お願い、帰って…!」


「お前にはなくてもなぁ、俺にはあるんだよ!」


無理やりドアをこじ開けようと、力を入れた。


「だいたい、お前が力で俺に勝てるかよ!」


思いっきり引くと、驚いた顔が見えた。


そのすきに、俺は家の中に入ってドアを閉めた。


「…っ、やだっ!」


「なんで逃げるんだよ!」


背を向け逃げようとしたから、俺は靴を脱いで手を引っ張る。


そして、そのまま後ろから抱きしめた。


「…っ…」


抱きしめた小さい体が、強張るのが分かった。


「離してください!」


「……お前に、言いたいことがある」


腕の中で暴れられたけど、耳元でそう言えば大人しくなった。


「…本当は、言うつもりなかった。でも、先に言われたからな」


無意識に、抱きしめる腕に力が入る。













「お前のことが好きだよ、優来」