夏休みの魔法


ーーーーー2年前。


「心配してくれて、ありがとう。でも少し痛いから、休もうかな」


そう言って、女の子は木の下のベンチに座り、前にあった木のテーブルに体を預けた。


「…大丈夫?」


放っておけなくて、隣に座る。


「うん、平気。疲れただけだから」


目を閉じてしゃべっているのに、不機嫌そうには見えず、むしろ優しかった。


「……あーあ、受験生なんてやだな。なんにも楽しくない」


「受験生なの?」


「そうだよ~。勉強勉強…やんなっちゃう。やりたいことなんてないのに、なんで勉強するんだろ」


女の子はふくれっ面をして、突っ伏した。


「…俺も、迷ってるんだよね…」


口が、勝手に動いた。


「そうなの?」


女の子が上体を起こし、こっちを見る。


「うん。…芸能界に入ったんだけど、本当に何かあるのかなって」


「芸能界かぁ…。遠いね」


「そうなんだよね。とりわけ優れた才能なんてないし」


ああ、ダメだ。


ネガティブ思考…。


「うーん、確かに才能って必要かもしれないけどさ、それがすべてじゃないでしょ。君は芸能人になりたいっていう夢があるんだから、それに向かって進めばいいと思うけどなぁ」


なんて、あたしが言えることじゃないけど。


そう言って、照れくさそうに笑った。