夏休みの魔法


二つ折りにされていたそれを開くと、三枚になっていた。


一番上に書かれた、『如月北斗くんへ』の文字。


見たことがあった。


「これ…」


「千来から、北斗にって」


ドキドキと、心臓がうるさい。


震える手で手紙を持ち、とにかく読んだ。





最後に記されていた名前。


木崎千来、ではなく、『咲島優来』だった。


「本当の名前、優来っていうんだって。女の子で、木崎さんの実の娘で。…北斗には、バレたって言ってたから、知ってた?」


「……名前は、知らなかった」


「そう。北斗に会うと未練が残るからって、夏休みの最後じゃなくて、今日でもう…」


「夕哉。これから、なんかスケジュール入ってた?」


夕哉の言葉を遮って聞いた。


「…何もないよ」


「分かった。じゃあ、俺行ってくる」


どこに、とは言わなかった。


「…うん、いってらっしゃい」


どこに、とは聞かなかった。


俺はカバンに手紙とピンを入れて、楽屋を出た。


「ちゃんと気持ち、伝えるんだよ」


「言われなくても」


バタンと扉が閉まる音も聞かずに、俺は走り出した。