夏休みの魔法


ぽんっと、誰かに肩を叩かれた。


それでも、頭を上げることなんてできなかった。


「…顔、上げろ」


かかった声は、蒼のものだった。


恐る恐る、顔を上げた。


そしたら、いきなり抱きしめられた。


「……よく、頑張ったな」


「蒼…」


呟いてしまってからはっとした。


蒼のことは、伏せたのに。


「……蒼は、知ってたんだ?」


尋ねられた、夕哉くんの低い声。


「ちがっ…」


「ああ、知ってたよ。社長もな」


蒼は夕哉くんの目をしっかり見た。


「ふぅん…。自分からバラすなんてね」


冷たい瞳、冷たい声。


「どうやって責任とるつもり?」


「おい、夕哉」


「水月は黙って。…ねぇ蒼。メンバー騙してたんだよ?それ相応の覚悟、してたんだよね」


椅子から立ち上がって、ゆっくりと蒼に近づく。


「…ああ」


「どんな覚悟?」


「……芸能界を辞める」


「…へぇ、それはおもしろいね」


…凍った微笑み。


「待ってください、蒼は何も悪くないんです!あたしのやることに、付き合ってくれただけで…!」


嫌だ、嫌だ。


蒼には、何も危害を加えなくないのに。