夏休みの魔法


朝、アパートを出ると階段の下に蒼がいた。


「…はよ」


「おはよう…どうしたの?」


予想外でびっくりした。


「……今日、北斗来ないけど?」


ドキッとした。


そう、今日は北斗くんだけ来ない予定になっていた。


理由は簡単。


作詞がまだできていなくて、社長に呼び出されたから。


「…知ってる」


「だろうな。知ってて、今日にしたんだろ。…それで、後悔しない?」


「しないよ。最後に会うほうが、未練残る」


「即答かよ。…ま、お前がそう決めたんなら、俺は何も言わねぇよ」


そう言って、蒼は歩き出した。


その横をあたしも歩く。


「…蒼、今日までありがとうね」


「なんだよ、急に。素直すぎて気持ち悪い」


「なんとなく、言いたくなった」


「…俺たちは、今日で終わりじゃないだろ」


「分かってるよ。今日中に、家に帰る。引っ越し会社の人が来ることになってるんだ」


「なら、遊びに行くな」


「うん、課題みてあげるよ」


手が、触れるか触れないかの距離。


昔のように手を繋ぐことはないけど。


蒼との距離は、変わらない。