夏休みの魔法


出てきたものの、特に行くあてなんてなく、ただ歩いた。


胸の中に、いろんな想いが交差する。


まさか、千来があの女の子だったなんて。


いや、それよりも、覚えていたなんて。


俺の独りよがりな想いで、勝手に心の支えにしていた出来事だと思っていたのに。


あの女の子には、もう会えない。


そう思っていた。


…あのとき、確かに俺はあの女の子が好きだった。


意志の強い瞳、それが怖かった、逃げたかった、うらやましかった、妬んだ。


…それ以上に、惹かれた。


欲しかった。





つぅーっと、温かいものが頬を伝う。


「なんだよ、これ…」


自嘲的な笑みしか、出てこなかった。


手の甲で、流れているそれを拭う。


でも、それは止まってはくれなくて。


「なんだよ…泣くほど、好きだったのかよ…」


あの女の子ではなく、千来を。


ドンッと力任せに横の壁を叩く。


片手で顔を隠しても、一度溢れ出した想いは止まらない。


込み上げる嗚咽を、歯を食いしばって必死で堪える。










いつだってそうだ。


大切なものは、失ってから気づく。


失ってから、ああ大切だったんだと、気づかされて、そして、後悔する。


失ってから気づいたって、遅すぎるのに。