夏休みの魔法


「…もう、いいだろ」


「え…?」


「泣いていいよ、甘えていいよ」


ガマンなんか、しなくていい。


そんな気持ちを込めて、ぎゅっと抱きしめた。


「…こわ、かった…怖かったよぉ…」


「うん、よく頑張ったな」


千来は、俺の背中に手を伸ばし、抱きつきながら泣いた。


幼い子どもみたいに、しゃくりあげて。


泣き止むまで、ずっと頭をなでていた。





泣き止むにつれて、背中に回された腕の力が弱まってきた。


「…また、助けてくれた…」


独り言のように、千来が呟いた。


「また?」


「前も、助けてくれた。…2年も前の話だし、北斗くんにその気もなかっただろうけど…」


ドクンと、心臓がはねた。


「…北斗くん、あたしね、忘れたことなかったよ…。ずっとずっと、応援してたよ」


ふわりと笑う千来の顔に、重なる面影。


「あたしが、一番最初のファンだよ…」


…俺は、呼吸を忘れた。


「ごめんね…言うつもりなんて、なかったんだ……」


それだけ言うと、千来は眠ってしまった。