夏休みの魔法


楽屋のドアを開け、ソファーに座らせる。


俺は黙って救急箱を取り出し、千来のヒールを脱がした。


靴擦れだらけの足。


左足は転んだときに捻挫でもしたのか、少し腫れていた。


脱脂綿に消毒液を湿らせ、傷口にあてる。


「…っ…」


千来が息を詰める。


「痛いけど、ガマンしろよ。…まったく、ヒール履き慣れてないのかよ」


「…こんな高いの、履いたことないんですよ…」


「それでよく走れたな。…ああ、俺が走れって言ったんだっけ」


手当てを終えてふと視線をあげると、ぎゅっと握りしめられた拳が目に入った。


その手は、小刻みに震えていて。


ぽたっと、雫が落ちてきた。


ハッとした千来が、目元を拭う。


「ごめんなさ…泣いてるんじゃ、なくて…」


必死に歯を食いしばって、泣くのをこらえる千来を見て、愛しいと思った。


守りたいと思った。


俺は千来の隣に座り、震える千来の体に腕を伸ばして、そっと引き寄せた。