夏休みの魔法


一旦会話が終わった後、俺はすぐにスタジオから出ようとした。


それなのに。


「北斗!どこ行くつもり?」


夕哉に止められた。


「そんなの決まってる、千来を見つけにいく」


「北斗くん、気持ちは分かるけど、君まで出てしまったら…」


プロデューサーさんが、申し訳なさそうに言う。


それでも俺は耳を貸さず、スタジオの出入り口に手をかける。


「北斗!」


夕哉が、俺を呼ぶ。


「…じゃあ…じゃあどうしろって言うんだよ!大人しくここで待ってろって言うのか!?千来を危険な目にあわせて!?」


…あれだけ嫌だと思っていた千来のことなのに、どうしてこんなにもムキになっているんだろう。


「助けに行くって言ったんだ、俺は行く!」


「…それは、そう言っちゃったから?だから、助けに行くの?」


…そう言ってしまったから?


だから、助けに行く…?


違う、そんなんじゃない。


そうじゃなくて、もっと、こう。


………ああ。


そうか。


そういうことなのか。


「大切だから、守りたいと思うから。…だから、俺は千来のところに行く」


ああ、なんて遠回りをしたんだろう。


心は、ずっと叫んでいたというのに。