夏休みの魔法


出た瞬間、走った。


ヒールのせいで足が痛むのも構わずに、ただ走った。


走って走って、階段を上る。


息が切れるのも構わなかった。


バンッと、屋上のドアを開けた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ…」


息が苦しい。


それよりも胸が苦しい。


痛い。


北斗くん、北斗くん。


「ごめんなさっ…」


フェンスを掴み、泣くのをこらえる。


綺麗だった。


確かに綺麗な笑い方だった。


でもそれは、綺麗でしかないんだ。


他の感情が、なんにもないんだ。


だから嫌いだ。


もっといっぱい、他の表情が、感情があるのに。


それをすべて押さえ込んでしまう、北斗くんの綺麗な笑い方が、嫌いだ…。








どれだけ、そうしていただろう。


ガチャッと、ドアが開く音を、聞いた。