夏休みの魔法


「…目、閉じてもらえますか?」


そう言っても、北斗くんは目を開けたままだった。


「あの……」


「…目」


「はい?」


「…泣いてたの?」


ドキッとした。


鏡越しに、目があった。


鏡のあたしは、確かに少し目が赤かった。


「こすっただけですよ?」


「……別に、嘘なんてつかなくていいのに」


呆れたように言って、北斗くんは目を閉じた。


あたしは淡い赤色のグロスを、北斗くんの唇に塗り始めた。


ただ黙々と手を動かす。


よし、綺麗に塗れた…。


そう思ったとき、まだ何も言っていないのに北斗くんの目がパチッと開いた。


至近距離で、目があう。


そらしたいのに、吸い込まれるように目が離せない。


胸がドキドキとうるさい。


北斗くんは目をそらさない。


…時が、止まったかと思った。