夏休みの魔法


蒼が撮影へ行ったら、あたしは一人になった。


ドレッサーの椅子ではなく、パイプイスに座る。


「あとは北斗くん、か…」


正直、気まずい。


会話なんて成り立たないだろうし。


…あーあ、あたし何やってんだろ。


北斗くんの言うとおり、北斗くんにバレた時点で去るべきだったのかもしれない。


でも、もう少しだけでいい、ここにいたかった。


みんなのそばに、いたかったんだ…。


ふいに泣きたくなって、上を向いた。


…ほんと、涙もろいな…。


ぎゅっと目をつむらなければ、溢れてきそうだった。


少しの間、そうしていた。





…ガチャッと、ドアが開く音がした。


ぱっと見ると、女の人が立っていた。


白い丸襟のブラウスに、淡い黄色のロングスカート。


胸まである、真っ黒の髪。


透明感のある肌に、薄く施されたメイク。


大人しい、儚げな印象。


そんな綺麗な人は、あたしを見て軽く目を見開いた。


どこからどうみても、女の人だった。


「…北斗、くん…?」


名前を呼ぶと、ふいっと顔をそらして、ドレッサーの前に座った。


あたしは立ち上がって、その後ろに立つ。


「…綺麗、ですね…」


「…………」


「あっ、早くやりますね」


沈黙が怖くて、早くメイクをしてしまおうとした。