夏休みの魔法


少し待ったら、蒼が来た。


うわっ!


…声を出さなかったあたしを、誰かほめてほしい。


黒地に黒のレース、ピンクのライン。


スカートはバルーン状になっていて、膝上丈で、リボンがついている。


ニーハイをはいて、黒のリボンがついた圧底のショートブーツ…。


「蒼くん、ほんとゴスロリ…」


「うっさいな!似合わないのは分かってるっつーの!だいたいなんだ、このくるんくるんのカツラ!うっとうしくてしょーがねぇ」


「縦巻きロールっていってください。…でも可愛いですね」


激しく写メりたい。


未来にぃに送りつけたい。


「蒼くん、最初こっち!」


心の中で葛藤していたら、隣のメイクさんに呼ばれてしまった。


じゃあその間に、蒼をどんな風にするか考えててよう。


カチューシャ…は空くんに使っちゃったし。


よし、バレッタにしよう。


黒地に白のリボンが三連のにしよっかな。


唇は…濃いピンクのグロス、決定!


「木崎くん、蒼くんお願い!」


そう言って、メイクさんはメイク室を出て行った。


どこ行くんだろ…?


「目閉じてください」


「…ほらよ」


うわ、すごいつけまつげ。


そんなのしなくても、蒼は綺麗な顔してるのに。


「…少し、しゃべってもいい?」


グロスを塗る手をとめて、話しかける。


「どうぞ。俺はただお前の独り言聞いてるだけだからな」


「…うん、それでいい」


再びメイクを再開する。


「…夏休み終わるまでの約束だったから、あと少しでここにはいられなくなる。早く終わればいいと思ってた。お父さんと分かり合えると思ってなかった」


話しながら、慎重に手を進める。


「でも、分かり合えて、COLORFULと仲良くなれて。…離れたく、なくなった。仲良くなれた、なんておこがましいけど、この空間が好きなんだ」


グロスを塗り終わった。


バレッタに、手をかける。


「………夏休みで終わりなんて、嫌だ」


パチンと、バレッタがとまる。


その音と当時に、蒼が目を開けた。