夏休みの魔法


楽屋を出るとすぐに、木崎さんと会った。


「ごめんごめん、あったよ~。…北斗?」


明るく話しかけてくれたけど、俺の様子がおかしいと気づいたのか、真面目な口調になった。


「どうかしたのか?」


「…すみません、用事ができました。ご飯、また今度連れて行ってください」


「ああ、それはいいけど…」


「本当にすみません、失礼します」


木崎さんの横を通り抜けて、帰ろうとした。


「…北斗、痛そうな顔、してるぞ?相談ならいつでも乗ってやるから、連絡しておいで」


「…はい、ありがとうございます」


木崎さんは、優しい。


いつも気にかけてくれる、今だって。


でも、さすがにこのことを話す気にはなれなかった。


どんどん歩いて、エレベーターに乗り込む。


幸いにも、乗っている人はいなかった。


扉に写る、自分を見た。


「ははっ…ほんとに痛そうな顔だ…」


乾いた笑みしか、出てこなかった。


自分から千来を傷つけておいて、自分も傷ついている。


「千来に言ったは本心だ。あいつは騙してた、嘘つきだ」


自分に言い聞かせても、虚しいだけで。


千来が俺たちと離れたくないと言ったとき、確かに嬉しいと感じたのに。


俺は思わず右手で顔を覆った。


「……嘘つきは、俺だ…」





いくら後悔したって、もう戻れない。